KAKEHASHI Tech Blog

カケハシのEngineer Teamによるブログです。

技術の本質について

みなさんは、技術とは何か、考えたことはあるでしょうか。 ここでは、技術哲学の立場から考えるための参考として、ハイデガーの技術論を取り上げます。

技術論のタイプ

A.フィーンバーグの技術: クリティカル・セオリーの分類によれば、 これまでの技術論は2つの立場に分けることができる、と考えられています。

  • 道具説
  • 自立的存在説

道具説は、世の中に広く受け入れられている見方で、 技術とは「中立的」であり、利用者の目的に奉仕する道具と考えます。

逆に、技術の中立性を否定する見方として、自立的存在説という見方もあります。 この説では、技術とはそれ自体が社会のすべてを管理の対象物として作り変えようとする、と考えます。

ハイデガーの技術論は、この説の代表的な考え方になります。

ハイデガーの技術論

技術への問い

ハイデガーはその著書、技術への問いで、 技術について問うことを、以下のように述べています。

われわれは技術について問い、そのことによって技術との自由な関係をを準備したいと思う。
関係が自由になるのは、それが技術の本質へと開くときである。
技術の本質に応答するなら、われわれは技術的なものをその限界まで経験できるようになる。

技術の本質

そして技術は目的のための手段である、という観念は正しいがそれは技術の本質ではない、と主張します。

技術は、技術の本質と同等のものではない。

道具はなにかを実現するための方法として原因を伴い、それはアレーテイア(明るみに出す、開蔵)ではないか、と主張します。

したがって、技術は開蔵のひとつのしかたである。

ここで、ハイデガーは古代ギリシャにおいて技術の語源であるテクネーは芸術をも含んだ概念であったことを指摘し、 ポイエーシス(詩作)に属する、と主張します。

プラトンは「饗宴」のなかの一節ででこう述べている。

「現前していないものから現前へとつねに移り行き進み行くものにとってのあらゆる誘発は、ポイエーシスであり、
<こちらへと-前へと-もたらすこと>である。」
テクネーは<こちらへと-前へと-もたらすこと>、すなわちポイエーシスに属するのである。
それゆえに、テクネーは詩的なものである。

しかし現代技術はポイエーシスではなく、<挑発>することに陥ってしまっている、と主張します。

現代技術のうちに存する開蔵は一種の挑発である。

この<挑発>によって事物が用立てられ、単に用象としてのみ明らかにされ、対象としては隠蔽される、と主張します。 ハイデガーは、この現代技術による用立てを「集-立(Ge-stell)」と名付けました。

われわれはいま、それ自体を開蔵するものを用象として用立てるように人間を収集するあの挑発しつつよびかけ
要求するものにこう名付ける ー 集-立 (Ge-Stell)と。

ハイデガーは、現代技術の危険性について次のように主張しています。

現代技術の本質は、集-立にもとづいている。集-立の支配は命運に属する。
開蔵の命運は、それ自体のうちになんらかの個々の危険を含むというのではなく、それ自体が危険そのものなのである。
それゆえに、挑発する集-立が伏蔵するのは、開蔵のかつてのしかた、すなわち<こちらへと-前へと-もたらすこと>だけではない。
集-立は、開蔵そのものを伏蔵し、それとともに、そのうちで不伏蔵性すなわち真理がそれ自体の固有性を出来させるかのものをも伏蔵する。

つまり、技術そのものが危険なのではなく、人間が真理の本質に気づく可能性を失ってしまうことが危険なのだと。

救うもの

ハイデガーは、ヘルダーリンの詩を引用し、技術の本質のなかに救いは存在するのか、という部分に光を当てます。

「しかし、危険のあるところ、救うものもまた育つ。」
用立ての止めがたさと救うものの控えめさとは、あたかも天体の運行のおけるふたつの惑星の軌道のように、たがいの傍らを擦れ違っていく。
技術への問いは、星々のそのような相互関係への問いである。

また、ハイデガーは晩年の著作で、現代技術へ取るべき態度を示す言葉として、<放下>という言葉にも言及しています。

放下とは、技術への対し方として、ハイデッガーが到達した概念である。我々は、技術の進化を、我々の本質(存在)を塞き止めないことにおいて、放置することができる。
つまり、避けがたい使用を放置することができるのである。同時に、我々の本質を歪めるその限り、否を向けることができる。この二重性が、技術への対し方である。

教訓

ハイデガーは現代のように情報技術が発達した時代に生きていたわけではありませんが、 彼の技術に対する哲学から、以下のような教訓を得ることできます。

  1. 技術が社会や個人に与える影響を理解すること。
  2. 単に技術のことだけを学ぶのではなく、学際的(Interdisciplinary)なアプローチで幅広い知識を身につけること。
  3. 技術倫理の観点から、責任ある開発をすること。

文責: 乙二雷和 (SRE)