KAKEHASHI Tech Encounterは、カケハシの開発組織やプロダクトづくりの裏側にある、社内のリアルな熱量を外部に伝えるために開催している技術イベントです。
第6回となる今回は、入社半年のSRE・森藤の「次回のイベント、自分めちゃくちゃいい話できる気がするんです!」という一言をきっかけに企画しました。
テーマは「カケハシを支える開発チームの今と次なる課題」。転職時に考えた人生の目的、入社半年で見えたカケハシの開発組織の現在地、そしてチームをまたいだ次の課題について、理想論ではなく、登壇者自身の言葉で語る回となりました。
当日は、前半を森藤によるセッション、後半を森藤・大山・竹本の3名によるクロストークとして構成し、オンボーディング改善の歴史、AI活用、開発チーム同士の距離感まで、率直な話が出ました。社外向けのイベントとして企画したものの、終わってみると社内のチーム理解にも効く時間になりました。
セッションパート「人生の目的と、カケハシの現在地」

転職を機に向き合った「人生の目的」
森藤:
転職の経緯を話す前に、まず「自分は何を大事にして働きたいのか」という話をさせてください。
転職は、自分にとってかなり大きな人生の転機でした。そのタイミングで向き合ったのが、『7つの習慣』に出てくる「終わりを思い描くことから始める」という考え方です。自分の葬儀で、周りの人が自分をどう語るのか。そこまで考えてみると、自分が何を大事にしたいのかが少しずつ見えてきました。

そこで出てきたキーワードが、次の3つです。
- 自分が主語になれる場所を持つ
- 他者の人生に自分がいた痕跡を残す
- 世界をほんの少しよくしたい
きれいな言葉に見えるかもしれませんが、もう少し生々しい気持ちもあります。
自分が役に立っている実感がほしい。関わった人の記憶に残りたい。できれば「あいつ呼ぼうよ」と言われる存在でいたい…そうした欲求もちゃんとあります。
そのうえで、社会にとって意味のある方向に重ねられる場所で働きたいと思っていました。
前職を含めて10年以上、医療業界に関わってきた自分にとって、カケハシは医療という大きな課題に向き合いながら、「なぜそれをやるのか?」が共有されている会社でした。
毎年「今年が勝負の年」と本気で言っていることや、「これっておかしくないですか?」と声を上げても受け止められる空気があることも、入社を決めるうえで大事にしていたポイントです。
「ピークタイムを乗り越えた飲食店」

森藤:
入社して半年が経った今、カケハシの開発組織を表すなら「ピークタイムを乗り越えた飲食店」だと思っています。
少し前までの分かりやすい課題はかなり片付いていて、自分が入社した時点では、過去のドタバタに比べると落ち着いていました。一方で、だからこそ今は「ここからプラスアルファで何をやるか」が問われるタイミングに来ているとも感じています。
そこで必要になるのが、「煮詰められた課題をちゃんとやり抜く力」です。
たとえば、コードベースが最初からきれいかどうかは、個人的にはそこまで本質ではありません。課題が見えた時に、自分たちでどう良くしていけるか。その方が大事だと思っています。
また、入社して驚いたことの一つにSREチームの自律性の高さがあります。自然に「あ、それやっておきますよ」と動くメンバーが多く、だからこそ、より本質的な課題に時間を使える状態があります。
最高のチームだからこそ、次のステージへ。僕はそんな気持ちで、今この組織に向き合っています。
クロストークパート「社歴もチームも異なる3名が語るリアル」
ここからは、森藤、大山、竹本の3名でクロストークです。
- 森藤敏之:Musubi基盤開発チーム / 入社半年、写真左
- 大山タケル:Musubi基盤開発チーム / 社歴4年、写真中央
- 竹本暁:Musubi機能開発チーム / 入社半年強、写真右

テーマ1:複雑だった環境構築の進化。オンボーディングのカイゼンにチームでどう向き合ったのか
過去の複雑さが減ってきた現在も「自発的なカイゼン」が回っている
竹本:
私が入社した時には、開発環境はかなり整っていました。リポジトリをクローンしてスクリプトを叩けば、一通り立ち上がる状態ではありました。
ただ、ホスト依存とかローカル環境の古さはまだ残っていて、完全に快適というわけではなかったです。今も uv や mise を入れながら、見つかった課題を少しずつ直している最中です。去年チームの人数が増えたこともあって、新しく入ったメンバーが既存メンバーの気づかない課題を見つけて直す、みたいな動きも増えました。
大山:
今の話が「After」だとすると、私がいたのはしんどい「Before」の時代でした。
M1 Mac移行期でローカルが動かない、フロントとバックで手順書がバラバラ、「スタンドアローン版」と「ハイブリッド版」の差分にも振り回される。当時は普通にきつかったです。
世の中のデフォルトがまだ Intel(x86_64)向けで、GitHub Actions も ARM 系にはほとんど対応していませんでした。ドキュメント通りにやってもローカルで全然ビルドできなくて、Rosetta 2 を入れたり、Dockerfile にアーキテクチャ別の処理を組み込んだりして、なんとか動かしていました。
その時に身についたのが「ナンパできる度胸」です。リモート環境でも、見ず知らずの他チームの人にメンションを飛ばして聞きにいく。それをちゃんと受け止めてくれる寛容さが周りのメンバーにあったから、なんとか変化を積み上げられたんだと思います。
森藤:
僕はそのカオスな時代を直接は知らないんですけど、入社時点でTerraform化が進んでいて、オンボーディングはやりやすかったです。
今のやりやすさは、勝手に生まれたものではないと感じます。リポジトリ数が多くて認知負荷が高い部分はあるんですけど、所管が決まっていて見通しはある。ぐちゃぐちゃのまま放置されている感じではないです。開発環境だけじゃなくて、AWS 環境のリソースもかなり整理されていて、後から入った側としては入りやすかったです。

テーマ2:今の開発プロセスや文化はチームとしてどうカイゼンしているか
AIを当たり前に使いこなし、「進学校」のように、互いを引き上げ合う環境
竹本:
今の機能開発チームで強く進めているのは、AI活用です。仕様駆動でどう開発を回すか、どのツールを選ぶか、AIコーディングで何が変わるのか。そういう検証を有志のグループが主体的に進めています。
実際には、OpenSpec や Superpowers といったツールを使いながら、仕様駆動で開発できるように進めています。「どのツールでコーディングするか」を選ぶグループや、「AI コーディングでどんな変化が出るか」を計測するグループが動いていて、仕様策定の前段をどうスムーズにするかも含めて見直しています。
森藤:
カケハシのAI活用って、かなり先行していると思っています。単にツールを配るだけじゃなくて、「今やらないとヤバい」という危機感を会社として持って、投資して、業務時間の中で試せる状態をつくっている。AIシェルパ(シェルパ:エベレストなど高峰登山のプロガイド)という名前の推進役がいるのも大きいです。
全員に複数の AI ツールが配られていて、「毎日使ってね」という前提があるのも特徴です。普段の業務に加えて個人の気合いで頑張るのではなく、会社として時間を割いて検証する形になっているのは大きいと思います。
大山:
今はもう、AIが特別なものじゃなくて、日常業務に普通に溶け込んでいます。自身のレビュー前にAIに見てもらう、調査で使う、CIエラー対応の流れに入ってくる。1、2年前とは仕事のステップが変わりました。
今のペアプロって、AIにコードを書かせて、その返答を待つ間に人間同士で雑談してる、みたいな瞬間もあるんですけど(笑)、それも含めて働き方そのものが変わってきています。
自分で書く時は Claude、人のレビュー前には Cursorを使ってポイントを見る、GitHub 上では CodeRabbit も確認する。Terraform のプラン結果を見たり、Renovate の CI エラーを Devin が直しているのを確認したりと、AI が入る場所はかなり増えています。
森藤:
「進学校にいると、周りに引っ張られてレベルが上がっていく」みたいな感じに近いんですよね。AIを使うことそのものより、AIとの付き合い方を自然に学べる環境にいることの方が大きいです。

テーマ3:最高の今のチームだからこそ見えている「次なる課題」
「正直、話しかけづらさもある」という本音
森藤:
今のカケハシって、「目に見えるマイナス」はかなり潰れてきていると思っています。だからこそ残っているのは、もっと根の深い課題です。
SRE視点で見ると、ユーザーのトレーサビリティやオブザーバビリティはまだ十分じゃない。ダッシュボードの数字が跳ねても、それがユーザー体験としてどう現れているかまで追い切れていない場面があります。
あと率直に言うと、機能開発チームは日々の価値提供に向けてフルスピードで走っているので、基盤側から横断的な相談を持ちかけるタイミングに気を遣う場面はどうしてもあります。お互いが目の前のミッションに集中しているからこそ、属人的な声かけではなく、自然と『ワンチーム』で向き合える仕組みが必要なんだと思います。
僕らとしては、ダッシュボードのグラフが跳ねた時に「何かあったな」とは分かっても、ユーザーの手元でどういうエラーとして見えているのかまでは追えていないことがある。だから、もっとアプリケーションのコード側にも入り込んで一緒に見ていく必要があると思っています。
竹本:
その感覚はすごく分かります。今残っているのって、「緊急ではないけれど重要」な課題ばかりなんですよね。片手間では解けないものが多い。
ただ、AI活用で生まれた余白を、もっと根本的な改善に振り向けていきたい気持ちはあります。SREとの連携も、これからもっと意識してやっていきたいです。
スタートアップなので、早く機能を出したいプレッシャーはやっぱり強いです。でも、そのまま走り続けるだけじゃなくて、浮いた時間をちゃんと改善に回す段階に入ってきている感覚もあります。
大山:
補足すると、完全にサイロ化しているわけではないです。エンジニア同士が気軽に話せる土壌はあるし、持ち込んだ議題をみんなでワイワイ話せる空気もある。
だからこそ今後は、有志の頑張りだけじゃなくて、正式なプロジェクトとして進める段階に来ているのかもしれません。「EM を通してください」みたいなルールがあるわけではなく、必要があればエンジニア同士で直接話せる関係性はあります。その土壌があるからこそ、次は横断の課題をどう正式に進めるか、という論点が見えてきました。

イベントが社内にも残したもの
今回のTech Encounterは、イベントの内容が社外への発信にとどまらず、社内の相互理解にもつながるという副次効果もありました。
当日はこのイベントをきっかけにオフサイトミーティングを実施したチームもありました。登壇した3名だけでなく、新しくジョインしたメンバーや、普段は業務で関わりの少ない別チームのメンバーも参加していました。セッションで出た「人生の目的」や、普段の業務だけでは見えにくい課題を直接話すことが、広い視点での現状把握につながっていました。
また、今回社員として参加していたメンバーのうち2名は、過去のTech Encounterに一般参加者として来てくれていた人たちでした。
イベントでカケハシを知った人が、仲間になり、今度は迎える側として同じ場にいる。こういう循環が生まれていることも、Tech Encounterを続けている意味の一つだと思っています。
KAKEHASHI Tech Encounterは、これからも定期的に開催していく予定です。カケハシの開発組織に共感いただけた方は、ぜひ技術広報のXをフォローしてもらえたら嬉しいです。