KAKEHASHI Tech Blog

カケハシのEngineer Teamによるブログです。

エンジニアが Professional Scrum Master を受けてみた

処方箋データ連携チームでエンジニアをしている岩佐 (孝浩) です。
カケハシには「岩佐」さんが複数名在籍しており、社内では「わささん」と呼ばれています。

先日、Professional Scrum Master (PSM) I と II の認定試験を受験し、無事に合格することができました。
「エンジニアがなぜスクラムマスターの認定を?」と思われるかもしれませんが、この認定取得を通じて、日々の開発業務の見え方が変わりました。
本記事では、受験の動機から学習方法、試験の感想まで、エンジニアの視点から共有したいと思います。

なぜエンジニアがスクラムマスター認定を受けたのか

私が所属する処方箋データ連携チームは、1名のプロダクトオーナー、1名のスクラムマスター、3名の開発者という構成でスクラム開発を実践しています。
私自身は開発者の役割で日々スクラム開発に携わっているものの、自分は本当にスクラムを理解して実践できているのだろうか、スクラムイベントを形式的にこなしているだけではないか、と感じていました。

スクラム開発の効果を最大限に引き出すためには、まずは自分自身がスクラムを深く理解することが不可欠だと考えました。
また、カケハシのバリューの一つである「変幻自在」を体現するためにも、自分の専門領域を超えて、チームに貢献できる幅を広げたいと考えました。

エンジニアの役割が主軸ですが、スクラムマスターの視点を持つことで、より多角的にチームの成果に貢献できるのではないかと思い、PSM を受けることにしました。

Professional Scrum Master とは

Professional Scrum Master (PSM) は、 Scrum.org が提供するスクラムマスター向けの認定試験です。
スクラムのフレームワークとその実践における理解度を測るもので、PSM I, II, III の3つのレベルが用意されています。

試験はすべてオンラインで受験可能で、合格すると認定バッジが発行されます。
詳細は公式サイトをご確認ください。

PSM I の概要

PSM I は、スクラムマスターとしての基礎的な知識と理解を確認する試験です。

項目 内容
問題数 80問(選択式)
試験時間 60分
合格ライン(正答率) 85%
受験料 200ドル
対応言語 英語、日本語、中国語

出題内容は、スクラムの理論、実践、価値、役割、イベント、アーティファクトなど、スクラムフレームワーク全般にわたります。

PSM II の概要

PSM II は、より実践的な知識と経験が求められる中級者向けの試験です。

項目 内容
問題数 30問(選択式)
試験時間 90分
合格ライン(正答率) 85%
受験料 250ドル
対応言語 英語、日本語、中国語

問題の多くはシナリオベースで、実際の現場で起こりうる状況に対してスクラムマスターとしてどう対応すべきかを問われます。

PSM III の概要

PSM III は、専門的な知識と経験を論述することが求められる上級者向けの試験です。

項目 内容
問題数 24問(論述式)
試験時間 150分
合格ライン(正答率) -
受験料 500ドル
対応言語 英語

問題ごとの回答は、スクラム専門家チームによって採点され、最終的に合格ラインに達しているかどうかが判断されます。

学習方法と使用した教材

学習期間は1日30分、2週間程度でした。教材は以下を活用しました。

1. Scrum Guide(必須)

まずは Scrum Guide を読みました。
これはスクラムの公式ガイドであり、試験の基礎となる内容が全て記載されています。
日本語版もありますが、英語で受験したかったので英語版を読みました。

2. Udemy コース

実践的な問題演習として、以下の2つのコースを受講しました。

これらのコースでは、実際の試験形式に近い問題を大量に解くことができ、自分の理解度を確認しながら弱点を補強することができました。
正解・不正解にかかわらず、解説を読んで理解を深めることが重要です。

3. Scrum Open

Scrum Open は、Scrum.org が提供する無料の練習問題です。
PSM I レベルの内容ですが、基本的な理解度をチェックするのに役立ちました。

実際に受験してみて

PSM I と PSM II の両方を受験して感じたことをまとめます。

試験の難易度について

試験問題の難易度は想定していたほど高くはありませんでした。
しかし、合格ラインが85%と高く設定されているため、「なんとなく理解している」レベルでは合格は難しいと思われます。
スクラムの理論を正確に理解し、実践的な場面でどう適用するかを明確にイメージできることが求められます。

PSM I と PSM II の違い

PSM I は主に知識を問う問題が中心でしたが、PSM II はシナリオベースの問題が大半を占めていました。
「このような状況でスクラムマスターとしてどう行動すべきか」という実践的な判断が求められるため、より深い理解と経験が必要だと感じました。

印象に残ったポイント

学習を通じて、スクラムにおける「自己管理(self-managing)」の重要性を改めて認識しました。
スクラムマスターは命令や指示を出すのではなく、チームが自律的に機能できるよう支援する役割であることを、問題を解くことで理解が深まったと思います。

受験を終えて

PSM I と II の認定を取得したことで、以下のような変化を感じています。

視野の広がり

これまで開発者としての視点でしか見えていなかったチームの動きが、スクラムマスターの視点からも見えるようになりました。
例えば、デイリースクラムの進め方一つとっても、「なぜこの形式で行うのか」という理論的背景を理解することで、効果的な提案について自然と意識するようになったと感じています。

受験前の自分もそうでしたが、スクラムの理解が不足していると、デイリースクラムを進捗報告会と誤解しがちです。
しかし、デイリースクラムの目的は検査と適応のための計画作りであって、進捗報告会ではないことを理解していると、より価値のある15分間に変えることができると思います。

理論と実践の結びつき

日々の開発で何気なく行っていたスクラムイベントやプラクティスが、どのような理論に基づいているのかを体系的に理解できました。

特に印象的だったのは、「スプリントレトロスペクティブ」の重要性です。
以前は「振り返りの時間」程度にしか捉えていませんでしたが、これが「検査 (Inspection) と適応 (Adaptation)」というスクラムの核心的な価値を体現する場であることを理解しました。
おかげで、「改善に向けた建設的フィードバックの場」として捉え直すことができたと思います。

チームへの貢献の幅

エンジニアとしての技術的な貢献に加えて、プロセス改善やチームの自己管理を促進する方法について考えるようになりました。

例えば、バックログリファインメントやスプリントプランニングでは、技術的な観点だけでなく、「本当に一つのスプリントで完了できる大きさか」「受け入れ条件は明確か」といった視点で考える割合が増えたと思います。
「エンジニアだけど PSM 認定を持っている」ことで、技術とプロセスの両面からチームの成果に貢献し、カケハシの「変幻自在」というバリューを、より具体的に実践していきたいです。

まとめ

PSM 認定に合格したからといって、すぐに優れたスクラムマスターになれるわけではありません。
しかし、理論的な基礎を身につけることで、より効果的にチームをサポートできる最低限の土台はできたと感じています。

エンジニアがスクラムマスターの認定を取得することは、決して役割の転換を意味するものではありません。
むしろ、自分の専門性を活かしながら、チームの成果により多角的に貢献できる可能性を広げるものだと考えています。

スクラム開発を実践しているエンジニアの方々には、PSM の受験をおすすめします。
まずは Scrum Open で腕試しをしてみてはいかがでしょうか。
無料ですぐに始められ、自分の現在地を確認できます。
チームの一員として、より深くスクラムを理解し、実践することで、チーム全体のパフォーマンス向上に貢献できるようになると思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。